意地っぱりな唇

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「ねえ、なんの話してるの?」 隣の野間ちゃんに小声で聞くと、彼女は 自分のスマホを私に見えるように角度を 変えた。 「文香さん、チョコですよ、チョコ。 バレンタインの」 「バレンタイン!?」 そうか、もうそんな時期なのか。 言われて気付いた私は、最近部署内の空気が 浮ついているのはそのせいだったのかと 思い至った。 「来週ですよ。文香さんはもう用意しました?」 「え、いや、私は……」 用意なんてしているはずがない。 だって、今初めて気づいたのだし。 そもそも私は─── 「どんなのを贈るんですか?参考に教えて ください」 「高橋さんなら、やっぱり大人っぽい やつですか?」 「さあ、どうなんだろう……」 次々と質問されるけれど、答えに困る。 実のところ、私はバレンタインにチョコを 贈ったことがなかった。 私にとってバレンタインは、チョコを 贈られる日であって、贈る日ではない。 小、中学校はチョコの持ち込みが禁止 だったし、そもそもチョコをあげたいと 思うような相手はいなかった。
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