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「隠し撮り・・・かな。大我はカメラのほうロックオンしてるように見えるけど、ホントは気付いてなかったよね。っていうか周り中カメラだらけだから気にしてなかったか。瑛はちょっと俯き加減で恥ずかしそうなのが初々しくて、ふたりの視線はバラバラなのに却って様になってるね。なんとまあ奇跡の一枚って、こういうの?」
満開の河津桜の下で寄り添うように立つ、大我と瑛の写真。
「俺、ずっと瑛の隣にいたと思うんだけどなあ…。見事に消されてる」
はああーと、蜂谷がうなだれた。
「すでにこのころからお邪魔さんだったんだあ」
宮坂の言葉の意味が解らない。
「あの・・・。俺、この写真、知りません。見たことがない・・・というか覚えがない」
とりあえず、自分の中の真実はこれだけだ。
「ちょっと待て、瑛。どういうことだ。だって、お前・・・」
「ああ、まあね、そうだと思うよ」
カードを開いて一読した宮坂は、テーブルの中央にそれを置いた。
「ねえ、大我。これ、瑛の字だと思ったんだよね?」
白い、シンプルな、桜の花びらの箔押しを散らしたカード。
中央に数行ボールペンで書かれている文字を瑛は視線でたどる。
『 大我へ
桜がもうすぐ咲く。
見に来ないか。
瑛 』
「これは・・・」
自分がもし大我に手紙を書いたなら。
勇気を出して書いていたなら。
こんな文章だっただろうと思う。
「どういう・・・こと・・・なんだ」
目の奥にちくりと波打つものを感じ、額を抑えた。
書いた覚えはない。
だけど。
書いたのだろうか、自分は。
覚えのない写真を一緒に入れて、ニューヨークのどこでどんな暮らしをしているかもわからないはずの大我に手紙を送ったのか。
「うん、まあ、ぱっと見に瑛の字だよね、蜂谷」
「ああ、まあな・・・」
ふうーっと蜂谷が息をついて、続けた。
「高校生のころの瑛の字に似てる」
突然、痛みが飛散する。
「え・・・」
「は?」
大我もあっけにとられている。
「うん。そうなんだよ。これ。蜂谷はヘタレだからぼかして言ったけど、ずばり、正確には大我に捨てられる前の瑛の字だね」
宮坂は美しく整えられた爪でテーブルをトントンと叩いた。
「もともと瑛の字は見やすくて綺麗だったんだけどね。今とはとめはねとペンの入る角度が少し違うんだよ。持ち手の型を変えたから」
「・・・あ」
慌ててカードを手に取って間近に見る。
さっきはまさに自分の字だと思った。
しかし、言われてみれば違うとわかる。
「そう。ペン習字。瑛は君と別れた後、講義の空き時間に習字教室に通って毛筆とペン字を基礎から修正をしたよね。だから僕たちから見れば違うってすぐわかる」
「あんたがなぜそれを知っている。単なる雇用主ではないのか。まさか・・・」
「ははは。今カレとでも?光栄だけど、違うよ。僕は瑛と蜂谷の大学のOBだった。だから会社のアルバイトで雇っていたんだよ。二人が大学一年の時からね」
頬杖をついた宮坂は、勝ち誇ったようにちらりと流し目をくれてやる。
「知らなかったよね。っていうか、全く興味なかったんだろう大我。瑛がどんな生活を送っていたかなんて。そもそもヤリたい時に呼び出すだけだったもんね」
先約があっても、大事な講義があっても、アルバイトを入れていても、大我から連絡があったらすぐに駆け付けた。
おかげで当時は多くの信用を失ったと思う。
せっかく仲良くなった大学の友達と疎遠になってしまったこともある。
宮坂には忠告を何度もされた。
蜂谷はいつも心配そうに自分を見ていた。
それでも、瑛の世界の中心は大我だった。
大我に会えるなら、何もいらなかった。
必要とされているのは身体で、暇つぶしでしかないこともわかっていた。
いつも、虚しかった。
独りの時も大我に抱かれている時も。
でも、彼の機嫌を損ねたら二度と声がかからなくなる。
もう会えないかもしれない。
ただただ、そのことだけが怖かった。
「な・・・」
大我の顔にさっと朱が混じる。
瑛は目を伏せた。
見たくない。
聞きたくない。
だけど、これが現実。
「まあ、二十前の男なんてみんなそんなもんでしょ。わからなくはないけど、無関心すぎたね。だからこんな下手な餌に簡単にひっかかる」
傍観者だからこそ、宮坂は冷静な判断ができる。
こうして立ち会ってくれたおかげで、絡み合った糸がどんどん解れていく。
だけど、それはこれほど痛みを伴わねばならないものなのか。
そもそも異性愛者の大我は瑛に対してすぐに食指が動いたわけではなかった。
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