エピソードタイトル未定

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「まず、この手紙は僕がいったん預からせてもらう。瑛からじゃないってことはわかったからいらないよね?大我」 「・・・ああ。構わないが、いったいそれをどうするつもりだ」 「瑛の名前をかたって大我を東京に呼び寄せた人がいる。それが誰なのか、理由は何なのか、僕なりに調べたい」  封筒の中にカードと写真を戻しながら宮坂は話を続ける。 「大我。君も用心することだね。相手は君をアメリカから追い出したかったのか、それとも・・・。お膳立てされて、うかうかとここまで来てしまったことを忘れてはいけない」  一瞬、大我の瞳に強い光がともった。 「・・・なるほど。わかった」  そして、ゆっくりと唇を吊り上げ嗤った。 「この俺を嵌めるとはな・・・」  世界中を魅了する、王者の風格。  誰よりも頂点に近いアルファとしての矜持が、彼の顔によみがえっていた。 「まあこれで、クロ確定なんだけど・・・」  はあ、と宮坂が盛大なため息をついた。 「気が重いね」  瑛の母親の動きに不信を抱いた宮坂と浅利が、たまたま志村大我の動向を調べ直したおかげで彼の入国に気付き、瑛を連れ去られずに済んだ。そして蜂谷が仕込んだ電波を遮断する機器のおかげで、合流した時点でおそらく会話は盗聴されていないと思うが、相手が何を仕組んでいるのかをまだ全て割り出せていないので、後手に回っているのは否めない。  念のため前日の治療に対する手続きを理由に、瑛を浅利の診療所へ行くよう仕向けた。  かかりつけ医の検査や母親の様子については、彼女がうまく色々聞きだしてくれるだろう。  だが、瑛もそこまで鈍くない。  体調不良も合わせた不自然な流れのなか、きっと色々なことに感づいて疑問を抱いているはずだ。  ただ、彼はオメガバースに対する知識が皆無に近い。  それはベータなら当たり前のことだ。  閉鎖的な特権階級ならではの秘密が数多く存在し、当の属性である者たちですら知らないことが多い。  志村大我のような、脈々と続くシルバーの血族の中に生まれたエリートであっても。 「こう頻繁に通信が途切れていたら、いい加減おかしいと思うだろうね、あちら側も」 「部屋の中は?」 「ああ、ありましたとも。どれだけ仕事熱心なんだって感服するくらい。あそこまでいくと盗聴マニアというより変質者だね」  瑛の母親が合鍵を持っている限りいつでもまた設置されてしまうだろうが、とりあえず『あってはならないもの』を全て除去した。 「ちなみに、超高性能赤外線の暗視カメラまであるという念の入れっぷりで笑ったよ。あれは多分、学生の時の瑛の部屋にも仕掛けていたね」 「ちょっとまて。今、すごく嫌な考えが浮かんだんだけど・・・」 「ビンゴだと思う。社宅に入る前のことだから、もう確かめようがないけどね」  大学に進学した当時、不思議に思ったことがあった。  大我にそそのかされて大学の近くで独り暮らしを始めたいと瑛が言い出した時、かなり過保護だと思っていた母親があっさり許可したのだ。  瑛はもちろん、蜂谷も拍子抜けした。  その理由がまさか・・・。 「大我専用のヤリ部屋になるってわかっていたんだね。と言うか、お膳立てしたんだよ。さあどうぞうちの子と存分にって」  そして、すべての記録を録っていた。 「・・・胸糞悪い」 「ああ、そうだね。今ほどの機能はないにしても監視システムはぬかりなく・・・」 「それ以上言わないでくれ、宮坂さん」 「・・そうだね。ごめん」  しかし、それほどまで環境を整えたにもかかわらず、瑛は変転しなかった。  二人がどれほど関係を持っても、ベータのセックスのままだ。  年齢的に機能が発達していないのかと様子を伺うなか、大我はつがいに出会い、あっさり渡米したきり帰ってこない。  おそらく彼らは瑛を監視するのと同じく、大我の動向も探っていたはずだ。  オメガの気性の荒さと気まぐれぶりは、バース研究をしている筒井氏ならばつかんでいただろう。  良い遺伝子の子供に恵まれなければ簡単に破綻することも。  だから、機会を狙い続けた。  大我が自由になる時を。  そして、瑛が成熟する時を。  しかし待てど暮らせど事態が好転することないばかりか、瑛は気が付けば二十五歳になっていた。  生殖機能の点から予想して変転のタイムリミットは三十歳。  俗にいう『美貌の劣化』を危惧した。  しびれを切らした彼らは、策をねりに練った。  そして、もう一度二人を引き合わせることがトリガーになるのではと思いついたのだ。  早速小細工を施している真っ只中、事が起きた。  貴種のオメガの大量殺人。  そして、狙い通りに大我はパートナーを失った。  これは運命なのか。  それとも。 「そもそも・・・。今日のあの時間、なんで大我はあの場所にいたんだろうね」
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