行きはよいよい、帰りは怖い

2/4
前へ
/13ページ
次へ
オレ達の生活は、比良坂(ヒラサカ)も加わり、何だかんだ言いながらも賑やかだった。 山神もほとんど見かけなくなった。 菊水が言うには、どうやら代替わりしたらしく、山に籠っているそうだ。 そして最近は神社にいる人間は見なくなって、オレ達は自分で境内を綺麗にして、あの忌まわしい菊の花は全部撤去した。 山神がこなくなったことで、菊水が提案したことだった。 最近、少しだけ、人間として生活してみたいなと思うようになった。 でも菊水から離れることはできない。 オレの魂を管理しているのは菊水だし、オレの真名を呼べるのも菊水だけで、比良坂も真名は知っていても決して口に出さない。 言霊の重さを充分知っているからだ。 「バーカ!……"ミチトシ"だよ」 何であいつに真名を教えたんだろう? でも、あいつに桜里(オウリ)に真名を呼ばれると、どんどん生きていた時の記憶が甦ってきて、たまらなく切なくなる。 菊水を裏切ることになるのに、どうしようもないくらい、桜里と人間として共に歩みたいと思う。 オレにはないはずの魂が震えた気がした。 生きることは絶対に幸せじゃない。 それを分かっていても、オレはもう一度生きてみたい。 倫寿として世界を見てみたい。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加