行きはよいよい、帰りは怖い

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菊水に事情を話して判断を仰ぐ。 話を聞いた菊水と比良坂は難しい表情で黙り込む。 オレも黙って菊水の答えを待つ。 しかし先に口を開いたのは比良坂だった。 「蓮香、全てを失う覚悟はあるのか?」 「ある」 「そうか。ならば、ここで首を落とされても構わぬのだな」 比良坂は持っていた刀を鞘から抜き、刀身を煌めかせながら振りかぶる。 菊水は目を閉じたまま何かを考えているようで黙ったままだ。 「やれよ。オレが本当に自分のことを自分で認められる今なら、何も迷いはねーよ!」 比良坂から目を離すことなく、しっかりハッキリ言ってやった。 オレは迷っている時間さえも惜しいんだ。 「比良坂、刀を鞘に収めて。蓮香の決意はもう変わらない。それなら蓮香に真名と魂、そして人間としてのしての時間をお返ししないとね」 「菊水…」 刀を鞘に収めた比良坂が、髪を結わえていた紐をほどき、オレの手首に巻き付ける。 「魔除けとして持っていけ。俗世は穢れが多いからな」 「ありがとう」 「蓮香は僕と一緒にいて恩返しって言ってたけど、恩返しは充分してもらったからね。逢えなくなるのは淋しいけれど、あなたの幸せを心から祈っております」
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