花一匁

5/9
前へ
/13ページ
次へ
何て言うかお喋りな人だな。 病気の割にはえらく元気な気もするけど。 「そうだ、名前は何と言うの?僕は"菊水(キクスイ)"。真名(マコトナ)は"阿坂為孝(アサカノタメタカ)"だけど、菊水と呼んでくれればいい」 「名前はない。名前で呼ばれたことはないから」 「そうか…じゃあ僕が名前を贈るよ。"蓮香(レンカ)"、これは普通に使える名前で、誰でも呼ぶことのできる名前。真名は"倫寿(ミチトシ)"、これは誰でも呼んではいけない大切な名前。キミは名前があるべき人間だから、この名前を胸を張って名乗っていい」 「レンカとミチトシ…蓮香と倫寿!ありがとう、嬉しい!」 初めて自分の名前をもらった。 誰も名前で呼んでくれなかったというか、そもそも名前なんて付いていなかったんだろう。 鬼子だったんだから…。 「蓮香はこの神社にきた時に山神に襲われたんだね。魂を喰らう為に肉体まで喰らい尽くされそうになっていた。身体が動かないのは喰らわれた傷と脆い繋がりの魂が外気に晒されているからだ。身体はじきに動くようになると思うよ」 その言葉は暗に"キミは死んだ"と言っているように聞こえた。 回りくどいことを言っているけど、多分そう伝えたいんだろう。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加