花一匁

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「えっと…話が見えないんだけど…」 「菊水が消えそうな気がして、引き留めなきゃって思って。それにオレに名前を付けてくれた恩返しに、菊水と一緒にいようと思って…」 「ありがとう。僕も蓮香と一緒にいたいな。一人は淋しいからね…」 後にオレは菊水から聞いたのは、山神の生贄になる儀式は"魂送り(タマオクリ)"と言って、山神に魂を返して山神の一部となって、永遠にこの世をさまようのだということ。 オレが彼岸花だと思った花は、昔から血で染まって赤く変色した菊の花だったこと。 菊の花は菊水が神社にくる前に生贄になって死んだ人達への慰めと祈りを込めて、菊水が植えたらしい。 だったら血は全部菊水の血になる。 それがどんな意味かなんて分からない。 そして隣で笑う菊水が何者なのかも分からない。 菊水の言葉は難しくて遠回しで賢くないオレには難解な謎解きだった。 「蓮香はきっと昔に遠つ国からやってきた人の血が流れていて、金糸の髪で翡翠の瞳という美しいけれど不可思議な姿をしているんだね。でも、長い時が経てば、その姿は大切な蓮香の一部となっているはずだよ」 「鬼子なのに?」 「人間の美的観念なんてすぐに変わる。僕が病気になる前は、長い黒髪で下膨れの白い肌が美人の条件だったんだから」
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