花一匁

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「ぷくく…下膨れ…!」 想像したら思わず笑ってしまった。 まぁ、長い黒髪は美人の条件に入っているのは納得かな、綺麗だもんな。 「蓮香は里の人間からすれば、神様にお返ししたかったほど、他と明らかに違う姿だった。本当に愚かだよね、そういう子は長じて歴史の寵児となる。神様の御使いと思えば大事にするはずなんだけどね」 「オレはそんな大層な子供じゃないよ。本当は一緒に生まれてくるはずの死んだ双子の姉ちゃんの方が親孝行だって言ってたくらいだし」 もう悲しいとか悔しいとかは思わないけど、言葉だけはずっと残っていた。 不意にスッと目の前が暗くなったと思ったら、菊水がオレを抱き締めていて、その感覚に少し戸惑う。 「僕にとっては蓮香がここにいることが、一番の親孝行で僕の幸せなんだよ」 そう言われてしまったら、菊水から離れようなんて思えない。 この時間が本当の幸せかもしれないな。 遠い記憶の中で、小さい頃の自分が、外で花一匁を歌いながら遊ぶ子供達を見ていた。 オレは相談する必要もなく売られた。 タダで神様に売られた鬼子。 それはもう要らない記憶なのに、きっとオレの一部だから消えないんだろう。
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