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老人は唐突にそう言いました。 「え? 私は、その……」 ヴィヨセラスは不意を突かれ言葉に詰まりましたが、老人の強い視線から逃れるように目を伏せて言いました。 「私は、食べるものも寝るところもないのでどうしていいか分からず困っているのです」 「ふん……。それは可哀想だな」 老人はあごひげをつかんで何度もこすりながらしばらく黙っていましたが、ヴィヨセラスに少し顔を近づけて言いました。 「ではオレがいいことを教えてやろう。今夜、ヴァヴェルの丘を下ってヴィスワの川辺に行け。城が零時の鐘を打つとき魚が三度飛び跳ねるから、そのほとりを掘るがよい。馬車に一杯の黄金が埋まっているはずだ」 「本当ですか?」 ヴィヨセラスはびっくりして伏せていた顔を上げました。しかしそこには老人の姿はなく、ただ薄ピンク色に染まった雲が見えるだけでした。
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