懐中時計の忘れ物

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目がさめると懐中時計は4時半を指していた。 外から赤い西日が差しこんでいて、 私は慌ててベッドから起き上がるとビルの階段を駆け下りていく。 手には一個の懐中時計。 彼から借りた懐中時計。 彼はものの貸し借りにうるさい人間だ。 早く返却しないと文句を言われてしまう。 ビル群のあいだを抜け、ショートカットの砂利道を駆けていき、 彼のいるビルの地下へと私は重たい二重のドアを開けて階段を降りていく。 そして、四つ目のドアを開けて私は言った。 「ごめん、時計を返すの忘れてた…ごぼっ」 びちゃちゃっという音を立てて口から何かがこぼれ出る。 それは赤い液体で引きつった顔をした彼は私に銃口を向けて叫んだ。 「返さなくていいって言ったじゃないか!」 その瞬間に私は思い出す。 廃墟となったビル群。異常なほどに赤い夕日。 蔓延した病、感染した私に彼は最後にこの懐中時計をくれて… そうだ、そうだった。私は死ぬはずだったんだ。 外で死ななければいけなかったんだ。 しかし、もう遅い。空気感染は始まっている。 なぜなら今、彼の目からも赤いドロリとした液体が溢れ出しているのだから…
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