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「すみません、この……この地図を作ったアナンという男は……」
地図からやっと目を離して店主を見たブラックに、おじさんはとても残念そうな顔をして首を振った。
「ああ、三年前に亡くなったよ。空白の国を測量すると言って出て行って……未知のモンスターに襲われたようでね。獣人たちが亡骸を彼の国へ届けたと、世界新聞で大きく報じられてたよ。まさか、プレイン共和国の英雄が死ぬなんて……本当に惜しい事だ」
「……そう、ですか」
見つめる横顔は、とても真剣で辛そうな顔をしていた。
いつものブラックじゃない。これは、多分……昔の、ブラックの顔だ。
俺が知らない過去を思い出す時にブラックは辛そうな顔をする。
きっと、このアナンという測量士も、ブラックの過去に何か関係が有ったんだ。
でも、俺は……それを、聞けない。
「キュー……」
「あ、ああ、そうだな。時間も無いし早くしなきゃ。えっと……おじさん、じゃあ新しいのを買うより、そのアナンさんが作った地図がいいって事?」
「いや、地形と縮尺は正確だが、それだって地形が変わったり国や街が消えちまったんじゃ正確さには欠けるからね。ここは最新の地図と二枚買う事をお勧めする。お兄ちゃん可愛いから、買うならちょっとおまけしちゃうよ?」
でた、商売上手のおっさん。
素直に買っちゃうのは癪だけど、それなら安全な旅が出来るかも。
買わないで後悔するより、買って後悔した方がいいよな。
アナンさんの地図は割高だったけど、その分最新版の地図を値引いてくれたので良しとする。おまけで「国の位置が解る程度の世界地図ならあげるよ」と、簡易の世界地図も貰ったし、ま、いっか。
礼を言って地図屋を後にしたけど、ブラックはやっぱり黙り込んだままだった。
……なんだよ、いつもは煩いくらいに喋るくせに。
これ話しかけていいの? でもなあ、普段お喋りな奴って、こういう時に話しかけると怒るしな。雰囲気悪くするのはあんまりやりたくないし……。
そんな感じで困ってしまって、手持無沙汰にロクの頭を撫でていると、ブラックは不意に頭を上げて俺を見た。
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