19.すべての思いは複雑怪奇

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  「地図、アレで良かった?」 「う、うん。正確なのが欲しかったし……てか……あんた、大丈夫?」  恐る恐る訊くと、ブラックは一瞬目を丸くしたが……もう深刻そうな顔はせず、いつもの人懐っこい笑みでにっこりと笑った。 「ああ、大丈夫だよ。ごめんね、変な所みせて」 「それは……別に、いいけど……」 「アナンってのは、昔パーティーを組んでた奴の一人でね。……アナン・レウコン・ダバーブって言って、凄く強い金の曜術師だった」 「え……」  喋って、いいの?  思わず面食らった俺に、ブラックは嬉しそうに顔を歪める。 「冒険してても絵を描く事をやめない変わり者でね、あちこち飛び回っては地形を模写してた。若い頃の僕にも、結構よくしてくれたよ。まあ……友人くらいには思ってたかな。でも、まさか死んでるとは思わなかった」 「……なんでそれを、俺に話すんだ?」  アンタ、過去とか話したくないって言ってたじゃん。  胡乱な目つきでブラックの無精髭生えまくりな顔を見上げると、相手は何故だかまた嬉しそうにニコニコと笑った。 「ん? 僕の過去の恋人じゃないかって不安そうだったから」 「だぁーッ!! んなことこれっぽっちも思ってないわい!」 「またまたそんな~」 「穴レンコンだか何だか知らんけど、俺はちゃんとした地図買いたかっただけだから! お前の恋愛遍歴とか全然興味ないから!! そういう浮かれポンチな勘違いホントやめてくれないかな!?」 「また饒舌(じょうぜつ)になってるね」 「うっ!! う、うぅう……」  悔しい、違うと言ってるのに解って貰えないこの悔しさ。  今日はセクハラされて無いから殴れないし、ジョーゼツだか何だか知らないけど、すぐにこう言い返されるから下手に反論も出来ない。  本当こいつどんどんタチ悪くなってるぞ。どうすりゃいいの。  
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