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「こんな事に大地の命である【気】を使うのはどうかと思うけど……まあ、これも練習だ。【ブリーズ】かけちゃえ」
【ブリーズ】は、風の術の初歩中の初歩だ。その名の通りそよ風を起こす。
「気を上手く扱えるようになったし、今の君なら初級術は簡単に出来るよ」と、帰り道にブラックに教えて貰ったのだ。掌からそよ~っと気持ちいい風が送られてくるだけなので、戦闘には使いようがないんだけどね。
暫く乾かして、俺は髪の毛を触ってみた。
「……おっ。パサついてない。色は……よし、変わってないな」
鏡に自分の姿を映してみると、心なしか髪が艶めいているようだった。
正直な話自分の容姿とかどうでもいいので、マジでこれといった変化が解らないのが辛い。でも多分、これは成功だろう。ロエルには人体に悪影響を及ぼすような要素は無いし、蜂蜜も図鑑の上では俺の世界の物と殆ど一緒だった。
明日も効果が持続してれば、ムルカちゃんにあげても大丈夫だろう。
服を着てロクを肩に乗せると、ロクがしきりに髪をくんくんと嗅いできた。
「ん? どした?」
「キュキュー!」
「良い匂いがするのかな。ロクはこういうの好きか?」
「キュゥ~!」
いつもより多くすりすりしてくるロクに、不覚にもキュンとしてしまった。
そっか~、やっぱりロクも甘くて美味しい匂いは好きだよなあ。てか、肩に乗ってるんだからやっぱ髪のにおいは気になるか。頭は小まめに洗ってるけど、ロクの為にもなるべく清潔にしておこう。
しかし、これからどうするかな。流石にまだ部屋には帰れないし……やっぱ親父さんに頼んで物置小屋かどっかに隠れさせて貰えるように頼むしかないか……。
頭だけホカホカの俺は、また再びカウンターへと向かう。今度はムルカちゃんは不在で、親父さんが新聞を読みながら頭を揺らしていた。
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