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お返しなんていりません!
「お疲れ様ぁ!!」
極上のスマイルを意識して、声のトーンにも気を付けて、滝本くんにそう声をかけた。ウチの会社が入っているフロアのエレベーターホールで滝本くんの帰社を待ち構えていた。
今日はバレンタインデー。チョコが入っているだろうと分かる紙袋を手にエレベーターホールで人待ち顔をしていれば、帰社してきた人や帰宅する人に興味津々で見られた。もちろん、そんなの計算ずくだ。
「おっ、誰待ってんの?」
ズバリそう聞いてくる人もいた。
「滝本くんなんですぅ。予定ではもう戻る頃なんでぇ。」
「へぇ、頑張って~。」
ここでこうして私が滝本くんを待っている事がみんなに知られる方が良い。他の女が滝本くんを狙わないように。自分で言うのも何だけど私は可愛い。スタイルだって良い。だってそれだけ努力しているもの。メイクだって、服装だって、日々努力している。「私なんて...」と謙遜したりしない。そんな事をしたら、逆に「馬鹿にしている」とでも言われて嫌味に思われたりしてしまう。そんな風に思われる位なら、堂々と自分に自信のある振る舞いをした方が余程ましだ。だけど、本当にそんな事を思っている訳じゃない。弱い自分を隠すために虚勢を張っているだけだ。
この私がチョコを渡して断られる訳がない。自信があるというよりは、自分にそう言い聞かせていた。本当は自信なんて無いのに。ちょびっとしかない自信をかき集めた脆い鎧しかなかったクセに、馬鹿な私はあんな強気な態度を取ってしまった。
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