28人が本棚に入れています
本棚に追加
「だから。何で俺が今それを食べなきゃいけない訳?」
「ええっー、だからぁ、さっきも説明したでしょぉ?マリンの手作りの生チョコなの。溶けちゃうと困るからぁ、いま食べて、ねっ?」
「とけるって...。それ、俺が今食べなきゃいけない理由にならないから。」
「えっ、でもぉ。」
外回りから帰ってきた滝本くんに、「チョコあげる」って言った時は嬉しそうな顔をしてくれたと思った。だからもう一歩、強気に出てしまった。「今すぐ食べて」って。それが失敗だったと今なら分かる。
「悪いけど、受け取れない。ゴメン、急ぐから。」
滝本くんはそう言ってチョコを受け取らず、社内へと入って行ってしまった。
強気に出てしまった理由は、同期の“チョコ”が配っていた義理チョコだ。“チョコ”は竹内智世子のあだ名。義理だというのに手作りで課の皆に配っていた。当然同じ課の滝本くんにも。机の上にメモ付きで置いてあるのを見たから間違いない。
滝本くんが社内に戻ったらあのチョコを見て、もしかしたらすぐに食べるかもしれない。そう思ったら、“チョコ”の物よりも先に自分のチョコレートを食べてもらいたいという気持ちを抑える事が出来なかった。“溶ける”なんてウソ。冬場の室温位では溶けない。ただ、誰のものより先に食べて欲しかっただけだった。
こんな事で泣かない。もしかしたらタイミングが悪すぎたのかもしれない。さっきの事を謝ったら、受け取ってもらえるかな?
最初のコメントを投稿しよう!