トイレにイットイレ

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 コンビニに着くと店内には入らず、店の横の駐車場へ行くように指示されます。  私は、命令口調のナビに従うしかなく、素直なのかドMなのか、判別が付かない状態なのです。もっとも、この二つの境は曖昧で、どちらとも好みで使い分ける程度の差なのかも知れません。  さて、コンビニの駐車場にはブロック塀があり、その手前のゴミ置き場の前に年老いた猫がいるのです。  猫は、哀れを誘うようにヨロヨロと近付いて来ます。目やにで塞がった目、判別不能なほど抜け落ちた毛並み、ふらつく足取り、全てが悲しみに満ち満ちています。何時だって猫は、人々の同情を受ける存在なのです。たまに、猫を虐待する人でなしが存在する話を聞きますが、信じられないのです。猫狩りをしてどうするのでしょう? 食べるとでも言うのでしょうか?  私が考え事をしていると、花子さんが命令します。 「爺ぃの猫が居るだろ? あたしに見せて」  私は、スマホのカメラレンズの焦点を老猫に合わせます。すると、画面の中の花子さんは、酷くご立腹な様子になります。私と花子さんが真正面で対峙したまま、時が流れます。私は、花子さんの不機嫌な理由が解らず、作り笑顔で固まります。二人の間に気まずい雰囲気が流れるのです。  暫くして、花子さんが口を開きます。 「猫の方に画面を向けるんだよ!」  叱られた私は、「だったら、『あたしを見せて』なのでは?……」などと思いましたが、別の言い訳で誤魔化します。怖いから。 「花子さんの目は、カメラレンズかと思って……」  私の反論に、花子さんは怖い顔で固まります。 「そりゃまた、お気遣いどうも」  花子さんは、嫌味たっぷりで返してきました。  さて、無事に猫と対面した花子さんは、猫Gに気合いを入れます。 「しっかりしろよ、ツインテール!」  花子さんの衝撃波を伴う大声に、老猫は目をパッチリ開けたのです。アーモンドの形に見開いた目には、縦線の瞳が怪しく光ります。  ミッギャァ~!  老猫は快音を発すると、みるみる若返り、白い毛並みも艶々に生え揃い、ヨボヨボの脚もしゃんとしたのです。そして、尻尾が二つに割れて二本になります。確かに、ツインテールなのです。  当然、私は驚きます。猫が化けると言う話は聞いた事がありますが、実際に見た事は無かったのです。  猫又と言う物でしょうか? 寿命を越えた猫は、時として妖怪に変化する事があるそうです。  ところが、更に驚いたのは、目の前に居る猫が喋ったのです。
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