トイレにイットイレ

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「なんにゃ花子か、花子かと思ったにゃ。一緒に居るのも花子か? 花子が花子に連れられ花子と一緒に来たにゃ?」  ツインテール、いえ、ツイちゃんは、ハイカラな名前の割りに間抜けな声です。変身する上に喋る猫の登場に、衝撃を受けます。しかも、リアルな現実となれば、もののけや妖怪としか思えません。恥ずかしい話ですが、少しお漏らししていたのです。 「えっ? 花子さんも現実の妖怪?」  現実を理解し、頭のネジがぶっ飛びそうなのです。 ♪もののぉ~けぇ~たぁちぃ~だけぇ~♪  無意識に、頭に抜ける高音で歌っています。駐車場で迷惑な話かも? でも、こうでもしないと平静を保てないのです。  私は、高音で歌唱する事で理性の崩壊を食い止めます。そして、花子さんと化け猫を現実として受け止めたのです。環境適応能力には自身があります。生物進化の頂点も夢ではないのです。などと妄想します。 「ツインテールは地域に出没する妖怪をチェックしている情報屋さ。茜の不登校の原因が解るかも知れない」  花子さんは、私に化け猫の説明をします。一般人としては、頷くしかありません。  花子さんは、今度は化け猫の方に話し掛けます。 「ツインテール、この辺りで妖怪を見なかったか?」  化け猫は、考えているようでした。 「最近は栄養不足のせいか? 物忘れが激しいにゃ」  なかなか抜け目ない化け猫で、見返りを求めている事が私にも解ります。さて、報酬請求に応えるのは、どうやら依頼人である私の役目になるらしいのです。 「早苗、コンビニへ金のスプーンを買いに行くぞ!」  私は、花子さんの指令に従い、コンビニエンスストアへ入るのです。  独特の電子音が鳴り、自動ドアが私を招き入れます。 「花子ちゃんもコンビニを利用したりするの?」  私が余計な事を聞くと、花子さんは小さな声で反論します。 「黙って買い物をしな。変な人だと思われるよ!」  確かにそうなのです。妖怪の方が私より世間体を気にしているのでしょうか?  ペットコーナーへ向かい、猫のご飯を探します。ツナ味とチキン味で迷い、神様の言う通りでも決めかねていると、花子さんの舌打ちが入ります。  私は、慌ててツナ味を選びます。  レジに猫のご飯だけを持って行くと、店長らしき年配の人が不審に思ったようです。顔が訝しげなのです。恐らく、駐車場の猫の事はご存知なのでしょう。  昨今のコンビニ事情は厳しいと聞いています。猫を案ずる余裕は無いのでしょう。居着いて厄介でもあるのでしょう。女子学生が猫のご飯を一つだけ買うとしたら、野良猫への供与を疑うかも知れません。  私は、ドキドキしながら会計を済ませますが、店員には咎められる事は無かったのです。  外に出ると、化け猫は、二本の尻尾を海で漂う昆布の様に揺らしながら待っていました。
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