トイレにイットイレ

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 ところが、当の化け猫はやる気満々です。ツイちゃんは、髭がピンと立ち、一本一本が針になって飛びそうでした。でも飛びません。大人の事情なのでしょう。 「方角は良いにゃ」  この言葉と共に、ツイちゃんの背中の皮が伸び始めます。  猫の皮は柔軟性が有って伸びそうですが、ツイちゃんの場合は異常でした。本体のサイズを無視した大きさの腕を形成します。  背中に生えた巨人豪腕(ギガンテスアーム)は、反動を付け、邪鬼に襲い掛かるのです。 「猫パンチ!」  ツイちゃんの猫パンチは、邪鬼の鳩尾(みぞおち)にヒットし、鬼を弾き飛ばします。  一方、花子さんは、画面の中のトイレに駆け込んでいました。もう、緊急事態の勢いでドアを閉めます。  そして、今度は茜の家のトイレから出て来ました。  その姿はリアル花子で、実体が有りました。彼女は、身長百四十センチ位の可愛らしい小学生で、接近パワー型ではないようです。  花子さんは、トイレのドアを開け放ち、邪鬼のご来店を待ちます。ドアノブを持って(ひざまず)き、来賓を迎える姿勢は、礼儀と言うより慇懃無礼の方でしょう。  トイレでは、水流の渦が出迎えます。個室内に渦潮が出現していました。  渦潮に飛び込んだ邪鬼は、クルクル回りながら飲み込まれ、やがて便座に収縮し、渦潮と一緒に消えて行きます。物理を越えた何かが起きたらしいのです。 「成敗!」  花子さんが決めポーズのまま、トイレのドアを閉めました。  私は、無意識の内に拍手喝采を送り、興奮して飛び上がるのです。
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