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私は、手早く仕度を済ませます。
平気でスッピンのまま行動できるのは、十代二十代の内だけだそうです。某妙齢の女性に聞いた事があります。一定の歳を経ると、朝のゴミ出しにすら化粧が必要になる場合があるそうで、その先へ行けば悟りの境地を得て、極楽浄土が待っているとも聞きます。
さて、そんな将来の事情は兎も角、私と花子さんはフランス人形を追いました。
どうやら、相手は壁も扉も通過できるらしく、既に姿がありません。まぁ、人形自体は普通なので、特殊能力は金糸の方にあるのでしょう。
一階に降りると、父が帰った様子は無かったのです。私はホッとします。父は厄介事が苦手で、厄介な母を憎んでいました。私はそうなりたくありません。
さて、私と花子さんは、人形の行き先は病院だと解っていました。移動手段にはタクシーを選びます。以前に花子さんが言った通り、成沢信吾の謝礼が役に立ちそうでした。老いも若きもアプリに従えです。
最寄り駅に向かい、タクシーを頼む事にします。ちょうど客待ちの一台が有り、乗り込みます。私は、タクシー独特の匂いに包まれ、リラックスします。幼い頃、夜中に熱を出し、両親に連れられてタクシーに乗った記憶が甦ります。その時も今も、行く先は病院です。
さて、私の追憶は兎も角、時間帯からか道が空いていて、タクシーはスムーズに病院へ着ました。
私の目の前に在る闇に向かって聳え立つ病院は、巨大な墓石にも見え、日中とは違う雰囲気がありました。まぁ、無気味です。
「人形は先に着いているのかな?」
私の質問に、花子さんは短く答えます。
「ああ」
花子さんから、私に緊張が伝染します。お漏らししそうな気がするのです。
さて、病院の玄関は閉まっているので、別の場所から入る必要があります。その点、ピッキングの天才が居ると便利な訳で、花子さんが適任でした。芸は身を助ける。です。
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