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さて、授業中の廊下は、何だか異世界に迷い込んだみたいに静かなもので、特に三階のトイレは更に静かです。
トイレの扉は四つあり、五つ目は細めの用具入れになっています。
私は、花子さんのアプリを起動して、〈写真を撮る〉を選択します。
アプリは、スマホの写真機能と連動しているらしく、カメラの画面になります。
「あれ、私、何をしているの?」
今頃になって、やっと正気に戻りましたが、時既に遅しで、シャッターを押していたのです。
カシャッ
静かなトイレに、乾いた音が響きます。
スマホの画面には、トイレのドアが写っています。何だか、妙に緊張するのです。虫が知らせる。と言うのでしょうか? 一般的に虫の知らせとは、根拠もないのに不安になる事で、ヤバいと感じる事かと思います。
その時、ヤバい事が起きたのです。トイレのドアが開き、誰かが出て来ようとしています。白いふっくらとした手が、ドアの端に写っています。
「え! 写っているの?」
スマホ画面の中のトイレの扉には、手が写っているのに、実在のトイレの扉を見ると、何の変化もありません。
写真は現実を映しているだけの筈なのに、写真と現実が違うのです。もうどちらが正解か解りません。
私は、再び画面を見ます。
そこには、小学生くらいの女の子が、トイレから出て来ています。彼女は、オカッパ頭で白いシャツを着て、赤いスカートを穿いています。
「嘘、嘘?!」
再び現実のトイレを見ると、やはり変化は無く、女の子はスマホ画面の中だけに存在するのです。
「うわぁ、これがウイルスじゃないの?」
私が叫ぶと、少女が言い返します。
「誰がウイルスだぁ? 呪うぞ!」
花子さんは、愛らしい小学生のクセに目付きが鋭く、顎を四十五度の角度に引き、顔の角度も四十五度で上目遣いな上、白目に浮かぶ小さな瞳が、常軌を逸する怖さだったのです。
私は、メンチを切られて恐怖を感じます。しかも、スマホが手から離れず、投げ捨てる事も出来ないのです。と、言うより、金縛りにあったかの様に動けません。
脚はガクガクと震え、心臓は暴れ回り、血の気が失せました。
「お願いします。呪わないでください。殺さないで!」
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