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尿漏れしそうな雰囲気でお願いすると、花子さんはトラウマ級の怖い顔を普通に戻し、威嚇を中止してくれたのです。
「あたしゃ、見ず知らずのJkを殺したりはしないよ」
「じゃあ、顔見知りのオジサンは殺すのですか?」
「あんたね、オジサンはJkの対義語じゃないんだよ!」
「ごめんなさい花子さん。許してください」
「何であたしが花子だと思った?」
「このシチュエーションなら常識でしょう」などと言い返せません。私は、花子さんの眼力に恐れをなし、ひたすら許しを乞います。
「すみません。トイレに出没するお化けで小学生の姿なのは、花子さんが定番なんです」
「ふ~ん、まぁ、花子で良いけど。ところで、あんたの名前は?」
「深町早苗です」
「じゃぁ、早苗って呼ぶわ。早苗、便所は飽きた。移動しろ」
何て威張りん坊なのでしょう? ん? 女の子に坊はおかしいでしょうか?
それは兎も角、すっかり主従関係が確立されてしまい、私は素直に従います。昔から、押しの強い人に弱いのです。
私は花子さんの命令に従い、教室には戻らず、そのまま学校を脱け出しました。
私は、こんな不良じみた行為は初めてだったので、オドオドしています。
考えれば、歩ける時点で金縛りは解けているのだから、スマホをどうにかすれば良いのに、律儀に花子さんを表示したまま歩いています。
まぁ、歩きスマホもどうかと思いますが、歴史の先生が、奴隷は考えない物だと言っていたのを思い出します。現代人は、皆スマホの奴隷なのです。
「花子さんは、どうして現れたのですか? 」
私の素朴な疑問に、花子さんは怒って答えます。
「あんたを助けるようにダディに言われたんだよ! いわば、毛毛毛の喜太郎だよ。花子さんを知っているんだから、喜太郎も知っているだろ?」
私は、花子さんの認識が間違っているように感じましたが、そこは大人の事情で良いとして、疑問が残るのです。
「ダディさんって誰ですか? 私、何処にも手紙とか入れてないんですけど?」
花子さんは、トイレを背景にした画面の中で手をバタバタさせて答えます。その姿には恐怖よりも、むしろ滑稽さを感じてしまうのです。
「ダディは神様に決まってんだろうがぁ! だから全部お見通しさね。あんた、今どき手紙だって? ハッ? もう世界の裏側まで同時に共有できる時代だよ。自動運転や仮想現実が実用化されてんだよ?」
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