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・夏樹 side・
黒羽様の手を引いて、俺達の部屋へと戻ってきた。
何で役職持ちじゃない俺が1人だったのかと言うと、単純に今年の2年が奇数だったから。
そのため元々2人部屋を1人で使っていた俺の部屋に黒羽様が来るのは当然だったし、いろいろと都合が良かった。
「・・・クラスの方はどうでしたか、黒羽様。」
「みぃんな優しかったで。“雪兎と仲がいい俺に嫉妬するやつもおらんかった”。」
「それじゃあS組は今のところ白ですかね。」
「たぶんな。よっぽど“殺気を消す”のが上手いやつって言うんなら別やけど。・・・でも、あのクラスは白やと思う。」
転校初日なのにもうクラスに馴れたのか、S組に犯人はいないと言い切る黒羽様。
俺はその姿を見て、密かに安心した。
俺が雪兎様の監視という名のSPみたいな役割に就くよう命じられた中学3年生の3学期まで、俺は花開院家にいた。
その頃の黒羽様は女狐の動向を探ったり少しずつ花開院家の仕事を教わったりしていて、クラスの友達と遊ぶことはなかった。
人のことを優先させ、自分のことを蔑ろにする黒羽様が唯一友だと言ってくれる俺ですら、黒羽様の奥底にある寂しさを紛らわすことができなかったのだ。
だけど、今。
黒羽様はちゃんと友達ができた。
寂しさを感じさせない笑みを、浮かべていた。
黒羽様を変えたのが俺じゃないのはちょっと・・・いや、かなりショックだけど。
それでも黒羽様が純粋な笑顔を浮かべてくれるだけで嬉しくなる。
・・・単純すぎるな、俺。
不謹慎だけど、黒羽様をこちらに転校させる理由を作ってくれた雪兎様に感謝してしまう。
「それにしても、犯人が監視カメラに映らんなんて変な話やなぁ。まるで“この学園のどこに監視カメラがあるんか分かっとるみたいや”。」
黒羽様がそう言った瞬間、俺の脳内に欠けていたピースがかちりとはまった気がした。
「・・・何でもっと早く気付かなかったんでしょう。監視カメラに映らないということは、監視カメラのありかを知っているということ。監視カメラがどこにあるのかを知っているのは役職持ちと先生・・・そして理事長だけ。つまり、役職持ちじゃないけど理事長の甥であるアイツも知っている可能性がある。」
アイツは雪兎様に執着していた。
それに親衛隊を嫌っている。
この事件の犯人の条件にぴったりだ。
「一宮翼が、犯人・・・?」
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