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紺太は2個目のパイチョコを頬張りながら、両親の褒め言葉を聞いていた。初仕事が大成功で本当に良かった。戦利品のお菓子の味は最高だ。でもちょっと気になっている事もある。
「ねぇお母さん。あの女の子、騙されたって気付いてないままだけど、それで良いの?」
「あら、紺太は優しいのねぇ。良いのよ。人間が騙されたって気付かない位の“化かし”が上手い“化かし”なの。」
「ふーん。」
「そうだな。紺太は初仕事にしては上出来だったな。ただし、言葉遣いはもう少し勉強する必要があるな。来月の“上級狐化かし試験”までまだ日にちがある。頑張りなさい。」
「はあい。」
“上級狐化かし試験”、これに合格して初めて一狐前の狐と認められる。紺太は今、言わば仮免許の状態で、オトナの狐と一緒じゃないと“化かし”は使えない。今回は試験に向けての練習だったが、上出来だった。
両親によると、試験が導入されたのは僕が生まれるちょっと前。近頃は、ちょっとおかしな出来事があるとすぐに“てれび”や“いんたーねっと”、“えすえぬえす”とやらで広まって、その場所はすぐに人間が沢山集まってしまう。だから上手な“化かし”が必要となり、試験が導入された、らしい。
来月の試験は“操り”が出題されると噂されてるけど、“変身”の方も練習しておかないと。どんな問題が出されるか分からない。
それにしてもあの女の子、自分の力で合格したのに、ちょっと気の毒だったかも。まあいっか、パイチョコの味は最高だった。
紺太は、戦利品の味を思い出しながら、母狐の尻尾を枕に眠りについた。
〈end〉
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