第三話『鳴神天狗綺譚』

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「……やれるのか?」 「やれます! じゃないと、広島の料理人になれませんから」 「広島の……? ああ、八犬から又聞きしたあれか。母親みたいに、心を救える料理人になりたいんだったな」 「はいっ!」  樹をまっすぐに見つめながら主張した。  だが、その真剣な表情はすぐに崩し、訝しむような表情を浮かべてしまう。  なんだか、樹の顔色が良くないように見えるのだ。  長い事眠っていたはずなのに、むしろ徹夜明けのように力がないのだ。 「あ、あの、樹さん……」 「なら、良いや」  疑問の声が、樹にかき消される。  彼は口をきつく結び、難問を提示する教師のように、続きを口にした。 「管弦祭の前に、ちょうどいい客の予約が入っている。何度か十二支屋に来ては、アナゴ飯を所望するんだが、これまで期待に応える事ができなくてな」 「私が来る前は、食事を出していなかったんですよね。それなのにアナゴ飯を食べたがっているんですか?」 「しょーがねえんだよ。そういう客なんだ」  樹はそう言って、深く嘆息した。  彼が手を焼くほどのあやかしというわけだろうか。 「そのあやかしの名前は?」 「……奴の名は、餓鬼だ」
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