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「……やれるのか?」
「やれます! じゃないと、広島の料理人になれませんから」
「広島の……? ああ、八犬から又聞きしたあれか。母親みたいに、心を救える料理人になりたいんだったな」
「はいっ!」
樹をまっすぐに見つめながら主張した。
だが、その真剣な表情はすぐに崩し、訝しむような表情を浮かべてしまう。
なんだか、樹の顔色が良くないように見えるのだ。
長い事眠っていたはずなのに、むしろ徹夜明けのように力がないのだ。
「あ、あの、樹さん……」
「なら、良いや」
疑問の声が、樹にかき消される。
彼は口をきつく結び、難問を提示する教師のように、続きを口にした。
「管弦祭の前に、ちょうどいい客の予約が入っている。何度か十二支屋に来ては、アナゴ飯を所望するんだが、これまで期待に応える事ができなくてな」
「私が来る前は、食事を出していなかったんですよね。それなのにアナゴ飯を食べたがっているんですか?」
「しょーがねえんだよ。そういう客なんだ」
樹はそう言って、深く嘆息した。
彼が手を焼くほどのあやかしというわけだろうか。
「そのあやかしの名前は?」
「……奴の名は、餓鬼だ」
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