第四話『管弦祭』

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 考えに変化が出たのは、先日の天狗もどきへの宣言からだろう。  なんとなく目指していた広島の料理人。  どう取り組めば良いのか分からなかった味覚問題。  それらに対する意識が、十二支屋の日々によって変化した。具体的に何をすれば良いと分からなくとも、ひたすらに前向きになろうと思えるようになった。だから、広島・宮島は再出発の土地なのだ。  その一方で、二十年生きてきた広島市という土地や、祖母を始めとした人間関係も大事に思っている。浅野に言われたとおり、人間社会で生きる必要もあると思う。無論、宮島も人間社会には変わりないのだが、十二支屋という職場においては、必ずしもそうとは言えないのである。 「……どーしたものかなあ」  迷いが言葉になってぽつりと、漏れる。 「ああ、残念ながらお手伝いはできないのです。宮島町の者は従事してはいけないのですよ」  浅野は、柊の言葉を御洲堀に対するものだと勘違いしたようだった。  誤解を解いたところで、浅野に気を遣わせるだけだろう。柊は話に乗る事にした。
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