第四話『管弦祭』

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 冷房の効いたスーパーに着くと、注文どおりのアナゴが用意されていた。念を入れて二匹分、その他必要な食材と一緒にカゴに入れる。その最中、汗が遅れて噴き出してきたので、ミネラルウォーターも加えた。 「えへへ、猿田さんの事、悪く言えないな」  苦笑しながら、スーパーの雨避け屋根の下でミネラルウォーターの蓋を開ける。今日は裏の通りでも観光客は多く、人目についてしまうのはちょっと気になったが『暑さで体調を崩すわけにはいかない』と自分に言い聞かせてペットボトルを煽った。水の冷気も、ごくり、ごくり、と鳴る喉の音も心地良い。  飲みながら、いよいよだ、と思う。  帰ったらアナゴに挑戦だ。これを克服すれば、管弦祭でも客が来てくれるかもしれない。もちろん、アナゴ飯だけでは客を呼び込めない可能性もあるだろう。……だが、自分が成長できる事だけは確実だ。『広島の料理人』にだって、なれるかもしれない。  いや、きっとなれる。  今の自分なら、なれる。  どこか遠くで、蝉が力強く鳴いている。  まるで、自分を応援しているような鳴き声だった。
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