第四話『管弦祭』

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 十二支屋に戻ると、下足場に見慣れない草履が置かれていた。博物館の『昔の人の暮らし』コーナーにでも飾られていそうな、相当使い込まれた草履で、十二支屋の物ではない。  つまりは、客の物。加えて言えば、今日のあやかし客の宿泊予定は、餓鬼の一件しか入っていない。受付にいる眷属に話を聞くと、やはり十数分前に餓鬼が予定よりも早く来訪したそうで、今は八犬が客室に案内しているとの事である。  自分も餓鬼と顔合わせをしておくべきだろう、と柊は考えた。宿泊のたびにアナゴ飯を食べたがっていたそうだが、今回だけ希望を聞かずに作り始めるわけにもいかないのだ。  買ってきたものを冷蔵庫に入れ、足早に二階へと上がる。扉が半開きになっている客室があったので、様子を伺いつつ中へと入った。 「……おや、柊さん」  客室に入ってすぐの所に立っていた八犬が、キビキビとした動きで振り返る。  その奥で、ボロ布のような衣服を纏った少年が、足を投げ出して畳に座っていた。いや、本当に少年なのだろうか。確かに背丈こそ子供だが、皮膚は老人のように荒れている。手足は枝のように細く、顔は頬骨が浮かび上がらんばかりにこけていた。だというのに、腹だけは突き出ていて、全体的にアンバランスなのである。
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