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「この方が……」
「今日のお客様、餓鬼様です」
八犬は短くそう告げると、体を壁の方に寄せて道を開けた。
そこを通って畳に正座すると、餓鬼は身体を動かさず、ぎょろりとした三白眼だけを柊の方へと向けてきた。
「お、おはようございます。料理人の福間柊と申します」
「料理人……?」
喉を壊したような声が帰ってくる。喋るのが苦しそうな印象もある。やっぱり年齢の判別はできない。
「はい、十二支屋では現在、食事を取り扱うようになっておりまして。夕食にご希望がありましたら、ご用意致します」
「夕食、食べられるんだ」
「ご希望にお応えできるよう、努力します」
「そっか……」
餓鬼はそれだけ呟くと、天井を見上げた。
何を考えているのだろうか。食べたい、と言うだけで済む話じゃないんだろうか。表情を窺うも、茫然とした目付きからは何も分からない。このまま待っているのは、柊の方が落ち着かなかった。
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