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「なんとなくは理解しているつもりですけれど、確認させてください。餓鬼って、一般的にはどーいうあやかしなんですか?」
「今日の餓鬼様が語られたように、餓死に起因する者が多いですね。食欲と無念さという負の感情を抱いて餓鬼に生まれ変わるのです。それが因果になっているのか、食べても食べても空腹感が満足感には変わる事はないのですね」
「神様や眷属とは、少し違うんですね」
「そうですね。我々眷属にも満腹感はありませんが、同様に空腹感もありませんから。もっとも、今説明したような生体の餓鬼は代表的なもので、食べようとしたものが焼失してしまう者なんかもいます」
「なるほど、二種類の餓鬼かぁ」
「細分化すれば更にいます。また、特に強い負の感情を抱いていた者は、餓鬼ではなく餓鬼憑きと呼ばれる存在に変貌を遂げ、人間に憑いて飢えを与える事もありますね。……ただ、厄介なのは今回の餓鬼様はどれにも当てはまりません。飢えないのです」
八犬の声が、更に潜められた。
「飢えないのに、餓鬼……?」
緊張感は柊にも伝わり、背筋を伸ばしながら返事をする。
「実は前回の宿泊時、餓鬼様に断ったうえで、近所のお店で買ってきたアナゴ飯弁当を出しているのですよ。それも、弁当箱が卓上で山盛りになるほどに。餓鬼様はそれを完食されましたし『満腹』との感想も頂きました。……ですが『満足ではない』とも」
「満腹じゃなく、満足……だから今日も、満たされるアナゴ飯、なんて注文したんだ」
「おそらくは」
「うーん、そうは言っても、何を以って、満たされるんだろう……」
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