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「樹様は、心ではないか、と言われていましたね」
「心……心を満たす、料理……」
噛みしめるように呟く。
どうやら、自分の目標と餓鬼の満足は重なったようだ。
このお題から、逃げだすわけにはいかない。
具体的な答えは分からないけれども、作ってみせようじゃないか、と思う。
そもそも、今の自分はアナゴ飯を作れるかどうか、からのスタートなのだ。それを乗り越えた後で、餓鬼の満足とやらについて考えればいいだろう。
「とりあえず、ご飯、作ってみますね」
「……お手伝い、しましょうか?」
八犬は、難しい顔をしながらも助力を申し出てくれた。
言葉に躊躇があるのは、自分に気を遣ってくれているからだろう。確かに、八犬の前で何か醜態をさらす可能性はある。申し出はありがたいが、柊としてもアナゴ飯は自分一人で取り組むと決めていた。
「ありがとうございます。でも、一人でやってみますよ!」
「分かりました。離れに控えていますので、何かあれば遠慮なく声を掛けてください」
「了解です!」
ボスの指令に答えるドラマの刑事のように、ハキハキとした声で言う。
だが、彼は現場指揮官。警部補といったところだ。ボスは他にいる。
「……ところで、樹さん、今日は起きているんですかね?」
「起きていますよ。新明座で琵琶の稽古をしていました。夕食の時間まで弾き続けるような事はないでしょうが、一声かけておきます」
先月から眠る時間が長いので、どうにも心配なのだが、今は問題ないらしい。
柊はこっくりと頷いてから、台所へと向かった。
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