981人が本棚に入れています
本棚に追加
「うあ、っ……」
蘇ったのは、あの日の記憶だけではない。
もう枯れたと思っていた涙が頬を伝っているのに気が付いた柊は、包丁を離した手で、慌てて涙を拭った。
だが、拭っても拭っても涙は止まらない。やがて拭うのを止め、顔を覆って座り込んでしまう。誰かと一緒に作っていたら、みっともない姿を見せてしまうところだった。
何も、変わっていない。
おさん狐が来る前日に挑戦した時と同じだ。
こうなる事は想定内ではある。それを前向きな姿勢で乗り越えられると思ったから挑戦しているのだが、蘇った記憶はそう甘いものではなかった。
「う、うう……どうして……どうしてこうなのよ……!!」
行き場のない怒りを吐露しながら立ち上がり、もう一度包丁を握る。
きっと、今の自分も鬼のような表情をしている事だろう。
なぜ、母は事故死しなくてはいけなかったのか。
なぜ、母を喪わなくてはいけなかったのか。
なぜ、こんなにも苦しい思いをして料理をしているのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!