第四話『管弦祭』

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「お待たせしました、樹様、柊さん」  だが、そこで八犬が台所に入ってきた。 「お待たせ、ですか? 今回は味見は頼んでいませんけれど」 「いえ、樹様に呼ばれまして」 「さっき話したとーり、今回は大事な客だからな。羊子ら仲居に頼まず、お前自身が給仕しろ。俺や八犬も同伴するからさ」 「そ、それは、まあ……」  今日が当番仲居となっている羊子は、浅野の依頼で本土まで買い物に出かけていたので、もともと自分で運ぶつもりではあった。  だが、樹らも来るとなると、料理の評価を直接見られてしまう。  更に不安がつのりはするが、掛け時計を見上げればもう午後七時を過ぎている。窓の外も暗くなっていた。すぐにでも料理を出さなくちゃいけない。 「……じゃあ、一緒に行きますか」  柊は自信なさげに頷いて二人を受け入れ、一緒に宴会場へと向かった。  新明座の受付から、客席に繋がっている扉の前で、一声かけてから中へと入る。餓鬼は畳の上で大の字になっていたが、柊の姿を目にすると、のそりと体を起こした。 「お待たせしました。お食事です」 「食べる」  相変わらずガラガラ声の返事が、即座に返ってくる。  相当待ち望んでいたようだが、果たして満足してもらえるのだろうか。どうすればその結果に至るかの答えは結局分からず、自信は欠片もない。それでも奥歯をかみしめながら、そっと料理を差し出した。
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