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「アナゴ飯でございます」
「………」
「あたたかく仕上がっていますので、宜しければすぐにお召し上がりください。必要であれば、おかわりも」
「いらない――」
餓鬼の口から、はっきりとした拒否の声が漏れた。苦手な野菜を拒む子供のような声だった。
「で、でも、ご注文はアナゴ飯では……?」
「確かに、頼んだよ」
「こちらは、そのアナゴ飯以外の何物でもありません。お気に召して頂けるかどうかは、まだ分かりませんが、その為にもまずは一口……」
「食べた」
「え……?」
「この飯は、もう食ったよ。前に来た時と同じ、アナゴ飯だ……」
その言葉に、頭部を鈍器で殴られたような衝撃を覚え、柊の上体が微かに揺らいだ。
料理を準備した柊には分かる。
餓鬼が言っているのは、言葉どおりの意味の『もう食った』である。すなわち……、
「おい、柊。お前まさか……」
後ろから、樹の凍り付いたような声が聞こえてくる。
振り返らずとも表情は分かる。彼も、この料理の正体に気が付いたのだろう。
「ごめん、なさい……買ってきた、アナゴ飯です……」
捻り出した声は、微かに振えていた。
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