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「もう一度言うぞ。あいつは飢餓から生まれた、辛いやかしなんだ。なのに、その傷口に、更に塩を塗るような真似したんだぞ、お前は。俺が怒ってるのはそこなんだよ!」
樹の声は、いつの間にか怒声へと変わっていた。それでも、言う事に間違いはない。真摯に受け止めるしかなく、柊は項垂れて話を聞いた。
……だが。
だが、と思う。
今回の件を経て、柊の中には、再び大きな壁がそびえ立ってしまったのだ。
「反省してます。あとで、餓鬼さんに謝ってきます……」
「当たり前だ」
「樹さん、でも一つだけ教えてください。……私、これから、どうすればいいんでしょうか?」
「あん?」
予想外の返事だったのか、樹は口元を斜めにして、柊を見上げ続けた。
「私、広島の料理人に……人の心を救う料理人になりたい……前に、お話ししましたよね」
「おう」
「その為には、味覚とアナゴ飯、二つの障害がありましたけれど、十二支屋で働くうちに、乗り越えられるような気がしたんです。前向きに、できる事から挑戦しようって気持ちになれたんです」
樹は、何も言わずに柊を見上げ続けた。
なぜだろうか、彼の目が次第に見開かれ、視線が怖くなってくる。
それでも、吐露しなわけにはいかなかった。
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