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八犬は肩を落として俯いた。視線の先に答えが書かれているかの如く、なかなか顔を起こそうとはしないが、前髪の隙間から見える目には、愁いの色があった。
「……実は、樹様に口止めされていた話があります。浅野様も、他の眷属達も知らないのですが、これ以上、私だけが知っておくのは好ましくないでしょう」
「重大な話、みたいですね」
「ええ。……樹様は体調が極めて宜しくないのです」
どう悪いのか、という疑問がまず浮かびあがる。
だが、そこもすぐに話してくれるだろうし、何よりも八犬の沈痛な様子が、不調の程度を物語っている気がして、柊は頷いて先を促した。
「おそらくは先程も、それを隠す為に、柊さんを追い払われたのだと思います」
「確かにさっきは、つらそうでしたね……」
「ええ。もっとも、体調不良は昔からなのですが」
「私も、他に思い当たる節はあります。十二支屋を運営している理由を教えてくれた時なんか、凄く顔色悪かったですよ」
「そのお話は聞かされていたのですね。であれば、話は早い。そもそも、樹様は地上に出ている状態が好ましくないのです」
「……それ、私が聞いても良いお話ですか?」
「先程も申し上げましたが、聞いて頂くべきだと思います。それほど重要な問題ですし、樹様と柊さんの間にも、不毛な仲違いが生まれてしまう。樹様が口止めしている理由も、みんなを心配させたくないだけですからね」
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