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八犬はそう言いながら、スリッパを脱いで室内に上がり、畳に正座する。
柊も同じようにして向き合うと、八犬は小さく深呼吸をして話を再開した。
「あやかしは、人間の認知と恐怖心を糧に活動しますが、実は樹様ら神様も似たようなもので……こちらは信心を糧に、活動する事ができるのです」
「あ、そんな話、前にちょっとだけ聞いた気がします」
「人は、神社や祠で神に祈願しますよね。悪い言い方をすれば自身の欲求を晒しているわけですが、それだけに想いは強く、信仰心が非常に高まる瞬間でもあります。それが、地中の住処におわす神様に届く事で、糧となります。樹様もその例には漏れません。現在は厳島神社の祭神ではありませんが、ご存知のとおり、大鳥居にはその名が刻まれており、宗像三女神ほどではありませんが、信仰もされていたのです」
話を聞いていくうちに、部屋に緊張感が満ちてくるのが分かる。
「それじゃあ、その住処を出て十二支屋で働いている樹さんは……」
「長らく、信心を得ていません……」
「今だって大鳥居の近くにいるじゃないですか。信心は届かないんですか?」
「近いとはいえ、神社の敷地外ですからね。神域、という言葉があるでしょう? 厳島神社に関わらず、神社の境内には妙に段差が設けられていたり、注連縄や柵が用いられているかと存じます。あれは、いわゆる境界線なのです。そこを越えている以上は得られません」
「じゃあ、樹さんの方から神社に向かえば……」
「まったく得られないとは言いませんが、気休め程度の微弱なものです。その効力で数百年地上に滞在したわけですが、もう限界ですね」
「そんな……」
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