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ふと、樹が教えてくれた、あやかしの生態を思いだす。
確か彼は、人から忘れられたあやかしは、無に帰すと言っていた。
同じ法則が、神様にも当てはまるのだとしたら……、
「……このままだと、樹さん、どうなるんですか?」
「そこまでは私も分かりません。ただ、あまり好ましい状態にはならないでしょう。既にその予兆が見えています」
「もしかして、変則的な睡眠がそうなんですか」
「そうですね。ですが、もう一つ。手にも影響が出ています」
「手……?」
「……これも口止めされていた事ですが、樹様は手が麻痺しています。どの程度の症状かは私も分かりませんが、以前はそのような事はなかった。おそらく麻痺も、信心が不足した影響かと」
「ま、麻痺って……別に、そんな風には見えませんでしたよ? 初めて十二支屋に来た日だって、うどんこねてくれたし、琵琶だって……」
……いや。
そんな風に見えていただけで、気が付かなかったのだ。
よくよく思い返せば、うどんをこねる彼の手つきは随分と荒々しかったし、琵琶だって上手く弦を弾けていなかった。
彼は、ずっと、人知れず苦しんでいたのだ。
自分を削り、心配させないようにそれを隠して、あやかし達の為に奮闘していたのだ。
『自分を削る覚悟もねえじゃんかよ』
聞いたばかりの言葉が、頭に響き渡る。
だというのに、自分は無理だ無理だと言うばかりだった。自分の状況ばかり考えて、あやかしの事は二の次、三の次になっていた……。
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