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「そんな……樹さん……」
唇が、震える。
それを強く噛み締めても、心の震えは止まらない。
「琵琶も、昔は普通に下手だったのかもしれませんが、近年の腕前は確実に麻痺によるものでしょう。境目は分かりませんが、今はもう、それは重要ではありません」
「そう、ですね。樹さんの体が心配です」
「さすがにこれ以上無理はさせられません。改めて、しばらく地中で休むよう進言します。柊さんが本当にお店を辞められるのであれば、私には止められません。ですが、希望を述べさせて頂ければ、樹様に安心して休息して頂く為にも、その日までは残って頂けませんでしょうか」
「はい……」
「ああ、良かった……ご無理を言いまして申し訳ありません」
「無理なんかじゃ、ありません。……私も、十二支屋の一員です。眷属じゃないけれど、みんなの仲間です。……先の事はまだ分からないけれど、主人の樹さんが休むのでしたら、それだけは見届けないと……」
「柊さん……」
柊の宣言を、八犬は穏やかな表情で受け入れてくれた。
その顔付きのままで深く頷き、ゆっくりと腰を上げ……、
……そして、彼は、その場に崩れ落ちた。
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