2月16日

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「今日はそんな気分なんだ。風呂入ってる?」 「ええ。ゆっくり浸かってきなさい」 そんな母の言葉を聞きながら、一郎は洗面所に入った。 鈴木家は古い木造アパートの小さな一部屋である。 当然個室などなく、1人になるためには今から扉1つで区切られた洗面所と浴室に入るしかない。 服を脱ぎ。 鍵が閉まっていることを確認し。 カバンから紙袋を取り出し、湯船に浸かる。 数秒間の静寂。 謎に高い浴室の防音性を頭の中で確認した後。 彼は、叫んだ。 「よっしゃああああああああああああ!」 紙袋の中身。 それはチョコレートであった。 この日は2月16日。 バレンタインは終わっていたが、一郎には関係なかった。 「しゃあああああああああああああああ!」 彼の咆哮は終わらない。 男にとって2月にチョコレートをもらう。 これがどれだけ幸運で素晴らしきことか、男性諸君であれば分かることであろう。 そして、もう1つ思うのではなかろうか? お前、イケメンなんだからチョコぐらいもらえるだろ。 勿論、大人気ヒーローであるレッドを演じる鈴木一郎は、モテる! 現に2月14日には段ボールから溢れるほどのチョコレートが事務所に届き、弟達に久々に糖分補給をさせることができた。 しかし。 今回は相手が特別であった。     
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