第十章 特別任務「大蛇再封印」

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 大和が家路につくと同時に、アパートの駐車場横の茂みから音を立てて源次郎が現れる。「おかえりなさい」「ただいま」も言う気が起きず、何も言わず一緒に部屋に入る。  源次郎に対して疑心暗鬼になりながらも買ってしまった冷凍グラタンを、早々に電子レンジに放り込んだ。  そわつく体を電子レンジの温める音が震わせる。いつもは見ない、回るグラタンを面白くもないのにじっと眺める。 「あまり温めすぎるでないぞ。火傷する」 「はいはい」  数週間ぶりに話すような気がした。大和は、時間設定を変えず、そのまま最後まで温めた。  ひと舐めした源次郎が毛を逆立てる。しかし、何も文句を言わない。 「ゲンさん、冷めるまで話をしませんか?」 「……」 「きっと答えてくれないことばかりだと思います。だから一つだけ教えてください。ゲンさんって何者なんですか?」 「藤原源次郎。ただの老いぼれじゃ。急にどうした」 「急……そうですね。今まで俺がゲンさんを知ろうとしなかったのにも問題があると思います。知った気でいました。俺を叱ってくれる口うるさい狸だと」 「ふん。それでよいではないか」 「俺たちが最高の相棒になるためにはそれじゃいけないんですよ」 「何を今更。お主は、幽霊警察官など極めたくはないだろ」  断固たる視線から源次郎が逃げる。 「ふん。嬉しいようで、今は腹立たしいの」 「もう目は背けません。陰陽師とゲンさん。何か関係があるんですよね」 「……ない」 「うそだ」 「証拠はあるのか。お主はわしのことを何一つ知らぬ。死んだときも何も調べなかったじゃろう」 「それは角野さんたちが戸籍から何までしてくれたので」 「何も知らぬお前が物的証拠を持っているとは思えぬ」 「物的証拠は持っていません。でも、何かが繋がりそうなんです」 「あやふやじゃな。警察官がそれでは真相へは辿りつけん」  唇を噛みしめる大和の前で、源次郎は鼻先をグラタンに近づける。とろけたチーズが楕円形に広がり、固まり始めている。 「……逆式の陣」  源次郎の鼻先がピクリと動く。 「慎之介さんの魂を、チワワから引きはがすとき持っていましたよね」 「あれは、近江から──」 「近江さんはそんなもの持っていないそうです。そして陰陽師の人も、それは門外不出だと言っていた。今、どこに持っているんですか?」  大和は、捕まえたとばかりに源次郎に詰め寄った。しかし、ここで、虚しく着信音が鳴り響く。  相手は角野だった。 「──春市君。大蛇が」  結局答えが出ないまま、半人前のバディは出動した。
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