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手を出す女性に、「ゲンさん」と呼ばれた狸はぷいっと冷たい態度をとった。女性には聞こえていないが、実際は「おい、大和! この子とはなんじゃ! そこの女も儂を幾つだと思っとる! もう68じゃわいっ!」と叫んでいた。
不可思議な光景だが、幽霊専門警察官には普通の光景。普通の警察官が警察犬をつれている感覚と同じだった。そしてゲンさんの声は専門の人間にしか聞こえない。可愛い狸の中身が還暦を過ぎた爺さんだとは思いもしないだろう。
「さっさと片付けて帰るぞ。あんな弱っちそうな霊体、すぐじゃっ」
機嫌を悪くしたゲンさん、本名・源次郎が鼻を上に向けクンクンと動かす。
「ほお、知能が低いは前言撤回したほうがいいかもしれんのお」
「急に野生の目つきになったね。さあて、仕事しますか。すみません、この陣の中に入って貰ってもいいですか? 取り憑かれると大変なので」
取り出した黄ばんだ布には陣が編み込まれている。人が3人入れそうなそれを広げると、女性は慌てて入った。
そこから少し離れ、大和は源次郎に尋ねる。
「前言撤回ってどういうこと?」
「こやつら、生きたネズミを操っておる」
「それに取り憑いて、夜な夜な悪戯してるってこと?」
「物音ごときなら取り憑く必要は無い。さしずめ盗みを働いているといったところか。霊体ではものを触れぬからの。天井裏のネズミたちから取り憑かれた臭いがする。儂はネズミの回収に向かう。狭いところはおてのものじゃ」
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