第一章 特殊警察部 怪奇課 幽霊係

3/33
前へ
/213ページ
次へ
 手を出す女性に、「ゲンさん」と呼ばれた狸はぷいっと冷たい態度をとった。女性には聞こえていないが、実際は「おい、大和! この子とはなんじゃ! そこの女も儂を幾つだと思っとる! もう68じゃわいっ!」と叫んでいた。  不可思議な光景だが、幽霊専門警察官には普通の光景。普通の警察官が警察犬をつれている感覚と同じだった。そしてゲンさんの声は専門の人間にしか聞こえない。可愛い狸の中身が還暦を過ぎた爺さんだとは思いもしないだろう。 「さっさと片付けて帰るぞ。あんな弱っちそうな霊体、すぐじゃっ」  機嫌を悪くしたゲンさん、本名・源次郎(げんじろう)が鼻を上に向けクンクンと動かす。 「ほお、知能が低いは前言撤回したほうがいいかもしれんのお」 「急に野生の目つきになったね。さあて、仕事しますか。すみません、この陣の中に入って貰ってもいいですか? 取り憑かれると大変なので」  取り出した黄ばんだ布には陣が編み込まれている。人が3人入れそうなそれを広げると、女性は慌てて入った。 そこから少し離れ、大和は源次郎に尋ねる。 「前言撤回ってどういうこと?」 「こやつら、生きたネズミを操っておる」 「それに取り憑いて、夜な夜な悪戯してるってこと?」 「物音ごときなら取り憑く必要は無い。さしずめ盗みを働いているといったところか。霊体ではものを触れぬからの。天井裏のネズミたちから取り憑かれた臭いがする。儂はネズミの回収に向かう。狭いところはおてのものじゃ」     
/213ページ

最初のコメントを投稿しよう!

201人が本棚に入れています
本棚に追加