第一章 特殊警察部 怪奇課 幽霊係

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 大和は腹の底から怒りがフツフツ湧き上がっているのにどう返していいか分からない。どう言えば見えない人間に説明できるのか検討もつかなかった。結局、怒りは拳の中に閉じ込めた。そして、「いきましょうか」と角野に背中を押されその場をあとにした。 「心当たりがあるから無視するのか?」  そう言い続ける警察官。しかし実際は…… 「見えないやつに何を説明しても無駄だにゃ! 人に文句言う前に、その全開の社会の窓をどうにかするにゃ!」  マルはずっと警察官のズボンのチャックが開いている事を叫んでいた。かなりの大音量なのに警察官には聞こえていない。 「この身体なら悪口も言い放題にゃ!」  角野が小さい声で「僕らには聞こえていますよ」とクスクス笑う。大和も特殊警察部に異動して初めて笑みが零れた。仲間がいることで初めて孤独から抜け出せた気がした。 「春市君はそうやって笑うんですね」  少しずつ、見える事へのコンプレックスを解消している証の笑み。まだ源次郎に引っかかれてヒリヒリする頬を撫でながら大和は異動初日の事を思い出していた。 「すみませんでした。色々と。見える俺がここで足を止めると、一緒に働くみんなを否定したも同然ですね」  組織力が命の警察にあるまじき行動だったと反省した。 「名前の通り特殊な部署ですから。これからもこんな目にあいますよ」 「……はい。言い返せなくてすみませんでした」 「マルさんがあれだけ叫んでいたら、僕らの出る幕はありませんよ」  角野が車のドアを開ける。そして大和と源次郎に仕事の眼差しを向ける。 「期待していますよ。春市班誕生ですね」  角野は手を差し出す。二週間前は握り返せなかったそれを、大和はまだ戸惑いながらも握り返した。
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