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「流石、ゲンさん。鼻がいいね。じゃ、俺は……」
大和は装備品の中から手袋を取り出し、慣れた手つきで身に着ける。さらに縄に札を巻き込んで編まれた手錠を取り出した。
「悪戯幽霊を捕まえるとしますか!」
人間の足と、狸と足が一緒に逮捕へと駆けていく。息のあったスタートダッシュと同じ熱意を持った背中。
──常人には見えゆ犯罪に立ち向かっていく背中は普通の警察官と何も変わらなかった
源次郎は素早く2階へ。大和は逃げようと壁の向こうへ通り抜けようとした幽霊の手首を掴んだ。その手には特殊な手袋。これを付けることで大和達は幽霊に触れられる。あとは逃走犯を捕まえるように引っ張る。手袋以外は霊体を通り抜けるため、技はかけられない。腕力のみで引っ張り特殊な手錠をかけた。
素早く手錠を幽霊の手首で巻き拘束。縄のもう片方を自身のベルトの巻き、他の霊体の逮捕へ向かう。
一方源次郎はネズミを追いかけた。屋根裏に続く扉から侵入し、動物の目をギラつかせ、狭い暗闇でネズミを探す。
──カタカタ
木の軋む音と小さな足音。ネズミを視界にとらえ、源次郎は短い足で駆けた。
急にネズミが動かなくなる。その変わり、身体からゆらりゆらりと取り憑いていた幽霊が逃げ出した。天井から透けて逃走を諮ろうとしている。
源次郎は口を開け、狸の牙で噛み付いた。大和の手袋同様、特殊な牙は幽霊を捉えた。ジタバタもがくが必死に食らいつき屋根裏から下ろす。既にほかの霊をとらえていた大和が源次郎が連れてきた幽霊にも手錠をかけた。
「ご苦労さま」
毛に絡まったホコリを落とす。源次郎は踵を返した。
「まだいたんですか?」
「いや、忘れ物じゃ」
屋根裏へ戻った源次郎。ネズミを咥え、さらに屋根裏を物色し指輪もみつけた。
***
「ほんっとうにありがとうございます!!」
女性は深々と頭を下げた。左手の薬指には指輪が煌めいている。
「退治だけでなく、指輪まで!」
「幽霊たちがネズミに取り憑いて盗んだものです。怪奇刑法に乗っ取り特殊窃盗罪でも検挙しますね。では俺はこれで」
踵を返す大和に女性はもう一度頭を下げた。来た時とは全く違う態度。幽霊専門の警察など信じない人間がようやく信じた姿を見た時、大和達は幸福と達成感に包まれる。
パトカーに乗り込み、後部座席をみる。
「それにしても狭いなー」
3人の幽霊が手錠をかけられ、後部座席に拘束されている姿は狭苦しそう。その証拠に透けている身体の隅が重なっている。
「はやく帰るぞ大和」
「分かってるよ……って、ゲンさん、大事な証拠品なんだから檻にしまっておいてよ」
助手席の源次郎は狸の前足でネズミを鷲掴みにしていた。
「うるさいのー、儂が逃がすわけないじゃろ」
大和は肩を竦めたが、そのままパトカーを発進させた。人間と狸の間に流れる信頼と絆は先程の逮捕劇を解すほど優しく穏やかな空気を纏っている。
しかし、こんな二人にもギスギスした時代はあった。そして今でこそ使命感に燃える大和にも、幽霊専門警察官として胸を張れない時期があった。
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