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結局、大和は同期に話すことが出来ず新年度を迎えてしまった。所轄勤務ではなくなった為、いつもと使う電車の路線を使う。特殊警察部は各署には設置されておらず本部にだけある特別な部署だった。
「ここが……県警本部……」
正面階段を登り、高い建物を見上げる。しかし春の香りと陽射しで目を眩ませ、逃げるように視線を外した。
館内に入り、まず異様だと感じたのはエレベーターだった。
『公務獣専用』
「こうむ……じゅう?」
噂には聞いたことがあった。特殊警察部に属する専門の動物のことだ。まだ直接見た事はないが、警察犬のようなものだろうかと大和は人間専門のエレベーターに乗り込む。通勤時間だというのに、機械の箱には大和しか乗らない。扉が閉まる間際、扉の前にいる他の警察官達が憐れむような目で見ている気がして、大和は閉まるボタンを連打した。
そして……
──エレベーターは地下へとおりていく
地下には特殊警察部と倉庫、そして地下駐車場しかない。夜勤の交代時間でもないこの時間帯なら地下駐車場へ下りる人は少ない。よって、下の階へ行く面々は特殊警察部の人間だと思われる。
嫌な視線は扉で阻まれたが、それが作り出す不穏な空気にひとり包まれながら、大和は地下へとおりた。
ポンッと音を鳴らし、開いた扉。
薄暗く、ものが散乱して、寒そうな廊下が広がっている……
そう想像していた大和の目の前には綺麗な白い廊下、丁寧に貼られたポスターに掲示板と、差別ない綺麗な空間が広がっていた。拍子抜けした大和の目の前で扉が締まりかける。挟まれながらエレベーターをおり、キョロキョロと自身の部署を探した。
『特殊警察部 怪奇課 幽霊係』
一枚板にそう掘られ、扉の横にぶら下がっている。
「ここが俺の新しい職場……」
想像とは違う内観に、中にいる同僚達の姿は全く想像つかない。しかしドアレバーに手を乗せた瞬間、背筋に悪寒が走った。
──この奥にはいくつかの霊体がいる
無視し続けていた感覚が呼び覚まされる。
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