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第四章 熊と特殊警察官
パトカーの中で、佐賀に仕事内容を聞いた大和は背筋に悪寒が走った。
「大丈夫よ! なかなか賑やかだから!」
溌剌とした声で笑う佐賀の口から出た、事件現場は──
「夜の学校なんてね、幽霊の社交場なんだから!」
夜の小学校だった。佐賀から「仕事は夜よ」と言われた時から嫌な予感はしていたが、ザ・心霊スポットという現場に帰りたくなる。
「ハルちゃんは、学校で幽霊にあったことある?」
「ありますよ。でもさすがに夜はないです。見えるからこそ近づきたくなかったというか」
「だよねえ。幽霊ってだけでも気持ち悪いのに、暗闇の中でってのがまたねえ」
おしゃべりな佐賀は、そういう割に軽やかにハンドルを切る。パトカーのヘッドライトが闇を割き、照らされた車道には「通学路」の文字。
「今回の事件の確認をもう一度していいですか?」
「どうぞ!」
「現場は市立の第三小学校。朝になると学校の備品や窓ガラスが割れていて、深夜に忘れ物をとりにいった教師が怪しい物音を聞いている。そして――」
大和は一瞬恐怖で躊躇った。
「なあにビビってんのよ! ほら続けて!」
「……廊下を疾走する人体模型と人体骨格模型を目撃した。で、間違いありませんか?」
「そう、正解! 学校にありがちな噂よねえ」
「目撃者多数に物損もあるなら信憑性は高いですよね」
「一応、生活安全課が最初の担当みたいだったけど、心霊的なものが濃厚になってこっちに話が来たのよ。窃盗の可能性も考慮して刑事部も動くかもって話だったけど、どちらも手を引いたってことは、この件は心霊現象で間違いないわね」
「刑事……」
「何か言った?」
「い、いえ」
佐賀が探るように大和を見たので、大和は話題を変えた。
「それにしてもパトカーでよかったんですか?」
後部座席を見る大和の視界にはぎゅうぎゅうに収まっている佐賀の公務獣「ダイちゃん」。ツキノワグマで少し小柄といえ狭そうだ。
「問題ない」
と、低い腰に響く声が返事をする。
「ダイちゃんさんは……」
「大悟でいい」
不愛想に見えるが、チャップリンよりはよく話す公務獣だった。
「大悟さんは事件現場へ行ったことありますか?」
「あるぞ。千枝と犯人の手掛かりをさぐりに何度も行った。残念ながら捜査中に尻尾は掴めなかったが、確実に何らかの霊が模型に憑依して遊んでいるのは確かだ」
鋭い目つきは、クマなのに警察官そのものだった。角野が佐賀の公務獣の霊体は元警察官と言っていたのを思い出し、納得してしまった
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