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「腹が減ったと思って食わせてやったのに、何だぁっ、何が気に食わないんだぁ? ああっ?」
その日、やっと夕食を与えられたが、佳織の胃は食べ物を受け付けなくなって吐いてしまった。
吐しゃ物を拭き取ってももらえず、うつむいたままの佳織の頭を利光が力任せに叩く。
何の抵抗もなく佳織が椅子から転げ落ち床に倒れ込んだ。そのまま動かないことを気にも留めず、利光は頭を踏みつけ床ににじり、それでもいら立ちを押さえられずに佳織の全身を激しく蹴り続けた。
「あなた――もうやめて――」
亮子がおどおどと止めに入ったが、大きな手で頬を張られ、それ以上何も言えなくなってキッチンの片隅にうずくまった。
「おらっ、ちゃんと座って食えっ」
ひとしきり暴力を加えた後、利光が佳織の髪を鷲掴みにし立たせようとした。だが、ぐったりして動く気配がない。
白目を剥き口から血の混じった泡を吹く佳織に利光は戸惑った。
「お、おい亮子、こいつ様子がおかしいぞ」
妻を振り返ったが、亮子は膝に顔を埋めて泣くばかりだった。
「おいっ、なんとかしろっ」
その時、佳織がごふっと咳き込んだ。
「なんだぁ生きてるじゃねえか。心配させんじゃねえっ」
安堵した利光はつかんでいた娘の髪を投げ捨てるように離した。
再び倒れ込んだ佳織は手を伸ばして利光の足首をつかんだ。
引っ張られて派手に尻もちをついた利光の表情が見る見る紅潮し悪鬼の形相へと変化する。
「てめえっ」
怒鳴りながら尻を上げた利光だったが、一瞬の差で起き上がった佳織に飛びつかれ、喉元を食い千切られた。
佳織は美味そうにくちゃくちゃと父の肉を食む。
利光は自分の娘に食われていくのを見ながら、死ぬまで耐え難い激痛を味わい続けた。
亮子は佳織の命の火が消えたことをすぐ知った。
夫の暴力を止めることもできず、うずくまって泣くばかりの自分を情けなく思う。
でも、わたしは何もしていない。佳織を虐待していたのは、殺したのは、あいつだ。
膝に顔を埋めて亮子はむせび泣いた。
だが、なぜか利光は佳織に怯え、悶え苦しみ始めた。
何が起きてるの?
その答えは利光の呼吸が止まってからわかった。
死んだはずの佳織が目の前に立ち、空ろな表情でじっと自分を見つめている。
最後にこの子の笑顔を見たのはいつなのだろう。
亮子はおもむろに腰を上げ、奥の部屋へふらふらと入っていった。
「お前が殺ったのか?」
縊死した母親の前で佳織は首を横に振った。
ふんと鼻を鳴らして美鱗が消えていく。
それを見送り、ぶら下がる母の手を握った佳織はいつまでもそばから離れなかった。
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