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病院のベッドから窓の外を見る。
「今日は雨だ……」
8階の白い壁に囲まれた自分に見えるのは、空。太陽が憎らしいことも青空から目を背けることも、とうに過去になった思い。
『家に帰ってもいいんだよ』
『真っ白な壁じゃ詰まらないでしょう』
『音楽とか、DVDプレーヤーとか……』
どれにも『放っておいてくれ!』としか答えなかった。
(だから? だからどうなるって言うんだ?)
ただ八つ当たりをしたかった。
ぶつかって来た小さな女の子。その真横を突っ走った自転車からその子を守ろうとした時、横断歩道に傘が飛んだ。
(傘が……事故になる!)
ちょうど青信号になった横断歩道を走った。右折してきた車の運転手の目が、広がったまま転がる傘を追いかける。減速はしたけれど走ってきた少年には気がつかなかった。弾き飛ばされた体は、大きく跳んで縁石に首から叩きつけられた。
全てがあっという間だった。信号が青から赤になるまでの出来事。
女の子がぶつからなかったら。
自転車があんなスピードで来なかったら。
傘が飛ばなかったら。
車の運転手が前を見ていたら。
雨じゃなかったら。
風が吹かなかったら。
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