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森下は僅かに口角をあげた。それだけで彼女がとても嬉しいのだと伝わってきた。
沙璃は胸元を隠す手を下ろした。同時に森下の手がバスローブを開き、胸部の噛み痕が、腹部の酷い青痣が、すべて晒される。
だが、彼女は眉ひとつ動かさなかった。
腹部の痣にそっと湿布を張る。沙璃をスツールに座らせて、当たり前のように床に膝をついた。そして、その長い脚を取ると、つま先から丁寧にストッキングを履かせていく。女性の繊細な指が素肌に触れて、沙璃の肉体は自然な緊張を覚えた。使用人が躯を評するのを無礼だと知っているのだろう。森下は一言も口をきかなかった。だから、余計に神経が触覚に集中してしまう。
彼女に壊れ物のように扱われるのは奇妙に思えた。森下のほうが自分よりずっと小さくて華奢で、丁重に扱われるべきものに見えるからだ。指だって腰だって彼女のほうが細い。その細い指が繊細なガラス細工に触れるように脚に触れる。腰に触れる。肩に。首に。
敬意に満ちた指が、もののように扱われた記憶を拭ってゆく。
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