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着替えを終えた沙璃は、一階の応接室に通された。深い飴色の建具はほかと共通しているものの、壁には若草色の絹織物が貼られており、やわらかく女性的な雰囲気だ。漆喰仕上げの天井中央に、柘榴をモチーフにした大きなレリーフがある。透かし彫りの目隠しで塞がれた暖炉の上には赤絵九谷の丸い花瓶が置かれ、淡い色のイングリッシュローズとこでまりが飾られていた。卓上、青の唐子絵の器には一重の白薔薇。
絵画を背に、諒はゆったりとした布張りの椅子に腰掛けていた。その隣に柊二が立つ。
「少しは落ち着かれましたか」
穏やかに微笑み、少し心配そうに沙璃を見る。
着替えを終え、鏡に映った沙璃は別人のようだった。優しいブルーグレイが肌や髪の色を美しく引き立てて、まるで生まれつきこんな格好をしている令嬢のようだった。少なくても埃まみれで走っていたようには見えない。なによりも幸いなことに、くりの浅いポートネックは胸元の痣を完全に隠してくれた。フレンチスリーブがノースリーブになり、スカート丈もいくぶん短くなってしまったが、これは仕方がない。足元は窮屈なミュール。靴が傷むと固辞したのだが、森下は強情だった。
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