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玄関前で出迎えてくれた青年がそれなりの手つきで紅茶を運んできた。
「ありがとうございます」
「どうぞ、冷めないうちに」
諒に勧められ、目礼して小花模様のカップを手に取った。カップは薄く、なみなみと紅茶が入っているのにおそろしく軽い。口に含むと温かく、沙璃は小さく吐息を零した。
「お口にあいましたか?」
「はい、とても美味しいです」
緊張して味はちっともわからなかったけれども、躯は温まった。
だが、居心地が悪かった。
いままで一度も会ったことがない――それどころか、存在さえ知らなかった叔父。
いつの間にか青年も森下も部屋から下がっている。
諒は紅茶を一口飲んで、傍らに立つ柊二を視線で示した。
「柊二は私がいちばん信用している人間です。彼がここにいても構いませんか?」
「は、はい……」
本題に入ると知って、思わず沙璃は居住まいを正す。諒がくすりと笑った。
「そんなに緊張しないでください。私まで緊張してしまいます」
ほんの少し首を斜にすると、茶がかった髪がさらりと耳朶を滑った。
「なにから話せばいいのでしょう。……沙璃さん、あなたは、私や八雲の家について、なにか聞いたことはありませんか?」
「いいえ、一度も」
「…………そうですか」
諒は膝の上で指を組んだ。
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